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東京高等裁判所 昭和41年(く)107号 決定

少年 E・D(昭二四・三・一四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人弁護士小原美紀作成名義の抗告趣意書に記載されたとおりであるからこれを引用する。抗告趣意第二について。

論旨は、昭和四一年六月四日午前一〇時水戸少年鑑別所における本件審判期日の呼出状は、保護者父Sに対しては同月二日午後八時頃鹿島警察署署員を介し右Sの次男Z方に届けられ、親権者母T代に対しては同月四日午前一一時郵便送達された。しかして親権者方から前記審判の場所まで約五〇キロあり、父Sは漸く右期日に出頭したが、附添人を選任する時間的余裕がなく、無学老齡で事情が判らないままただ審判を傍聴するに止つた。若し時間的余裕があつたとすれば附添人を選任し、抗告の趣意第一に主張する事実を反映させることができ、決定に影響を与え得たと思料される。してみると原決定には決定に影響を及ぼす少年法第一〇条、少年審判規則第二五条違反の違法があり、取消しを免れないというのである。

よつて按ずるに、少年保護事件記録によると、原裁判所は昭和四〇年一〇月一三日本件強姦致傷、監禁事件の送致を受け、同月二〇日審判開始決定をし、第一回審判を、保護者父Sを呼び出し同人も出頭のうえ、同年一一月二日水戸少年鑑別所において行ない、次いで少年を試験観察に付し、補導委託したが、後記のとおり少年が委託先を逃走したため、昭和四一年六月二日午前一〇時四〇分同行状を執行し、次いで右鑑別所に送致したうえ、同日、第二回審判期日を指定するとともに、親権者母T代に対し呼出状の郵便送達手続をとり(右は同月四日午前一〇時四〇分送達された。)同父Sに対しては急速を要したので鹿島警察署警察官小田倉康雄に呼出状の交付方を依頼し、第二回審判を、本件窃盗事件をも併合し、同月四日午前一〇時前記鑑別所において行ない、出頭した少年および父Sの陳述を聴取したが、その際いずれも附添人選任その他審判手続のことに関しては格別の発言もなく終了し、次いで原決定が告知されたことが認められる。してみると、母T代に対する審判期日の呼出しは全く時期を失し、発信日と期日との間に十分な余裕を置かなかつた憾みがあるが、しかし審判期日には保護者数人のうち適当な一人を呼び出すをもつて足り、呼出手続も呼出状送達のほか相当な方法によることが許されているのであるから、父Sを呼び出し、かつ、同人が期日に出頭し、しかも格別の異議のなかつた本件においては、結局親権者に対する呼出手続および第二回審判は適法に行なわれたものというべく、なお附添人の選任は前記事件送致後何時にてもなし得たのであつて、その時間的余裕は十分にあり、第二回審判期日の場合のみを捉えて選任の機会を与えなかつたとする所論は首肯し得ない。さすれば原決定には所論のような法令違反の違法はない。論旨は理由がない。

抗告趣意第一について。

論旨は、要するに原決定の少年に対する保護処分は著しく不当であるから取消しを免れないというのである

よつて、本件少年保護事件記録および少年調査記録を精査して考察すると、本件は、少年が、(一)数名の少年と共謀のうえ、深夜、他家の軒下からサボテン七鉢(時価一四〇〇円相当)を窃取し、(二)Aほか二名と共謀のうえ、(イ)飲食店女中(当時一九年)を姦淫しようとして、日中、会社構内を歩行中の同女を少年の運転する乗用自動車に強いて乗車させ、途中同女の脱出を妨げ、一時間余の間約一〇キロメートルの道路を走行し、同女を同車内に不法に監禁し、次いで、(ロ)右自動車内において、同女の顔面を手拳で殴打し、「このあま売りとばすぞ」などと申し向けて脅迫、畏怖させ、その反抗を抑圧したうえ、右Aほか一名および少年が順次同女を強いて姦淫し、よつて同女に対し全治二週間を要する左顔面部打撲兼左眼周囲皮下出血、腟裂傷の傷害を負わせたというのであつて、犯行まことに悪質である。尤も、窃盗の犯行は少年自らは実行しておらず、従属的立場にあつたものであり、また監禁、強姦致傷の犯行はAほか一名が首唱したものであつて、少年は寧ろこれに追随したことが窺はわれ酌むべき点もなしとしない。しかし、少年は、農漁業を営む裕福な家庭に四子の末子として生育し、小学校は無事終了したが昭和三六年四月中学校に進学後問題少年と交遊するようになり、しばしば学校を休み、もとより学業成績は劣等であつて、昭和三七年一一月一四日頃他の少年とともに原動機付自転車を窃取して警察に補導されたのに、更に昭和三八年三月二二日頃から同年五月二七日頃までの間前後四回に亘り同様他の少年とともに原動機付自転車合計四台を窃取し、同年七月三日在宅試験観察に付され、次いで翌三九年二月二〇日保護観察処分を受けた。そして同年三月中学校を卒業した後、三か月ほど自動車修理工見習として他に住込みで働らき、同年七月からは両親の許より通勤して兄Zの営む自動車修理業の手伝いをするようになつたが、依然問題少年と交遊し、三輪免許を受けたに過ぎないのに普通自動車を乗り廻して夜遊びを続け、保護観察期間中またも本件各犯行におよび、しかも昭和四〇年一一月二日前記(二)の事件により試験観察に付され、施設に補導委託されている間三回に亘り同所を逃げ出し、第一、二回は家人に連れ戻され、第三回は同行状の執行を受けるに至つたが、逃走の動機も、少年の陳述によると、第一回は少年が父兄らと面接の際同人らから現金およびたばこを貰つたが、このことで施設の主幹から他の少年らとともに注意を受けたので、他の少年らに申訳ないからというのであり、第二回は他の一少年にいじめられたというのであり、第三回は朝早く起こされ働らかされるのが面白くなく、却つて悪くなると思つたからというのであつて、所論のように或いは補導に十分でなかつた点があつたとしても、少年の更生意欲に疑いを抱かざるを得ず、なお連れ戻された都度担当家庭裁判所調査官に今後は逃げ出さないと誓いながらたやすくこれを繰り返したことを思うと、前記重罪に対しても罪悪感に乏しく、反省に欠けるところがあることを否み難い。しかして、少年は、鑑別結果によると、知能が低く、性格は自己本位であり、軽度の知力障害があつて、総じて精神薄弱の域にあり、そのため一面において引込み思案であるのに欲求を阻止されると粗暴、攻撃的となり、強い仲間には追従し、気安い場面では主導的に振舞い、慎重さを欠き易く、自己の生活熊度に対する反省に乏しい憾みがあるなど、様々の問題のあることが認められる。してみると、少年が前記試験観察後非行をしていないことは所論のとおりであるが、再非行に陥るおそれなしとせず、この際右の如き性格を矯正することの重要であることは多言を要しない。しかして少年の両親初め家族の者が、少年の前記逃走に際し二回に亘り連れ戻していて、補導に協力したことは所論のとおりであり、少年に対し関心のあることを認めるにやぶさかではないが、そもそも少年が非行を重ねるに至つたのは、少年の資質もさることながら、両親においてこれまで少年の教育に関心が薄く、放任的に養育し、少年の夜遊び、無断外泊等をも放任して監督を尽さず、基本的な躾けを十分にしなかつたことによることが窺われ、現在においても実態を過少に評価し、庇護的の憾みがないとはいえず、改めて同人らに少年に対する適切な指導を期待することにいささか躊躇せざるを得ず、兄姉に少年指導の適格者を求めることも至難である。

以上のような少年の性格、環境、非行の程度等に鑑みると(なお、所論の被害者との示談の成立、共犯者に対する取扱いの如何は、本少年の保護に重要性を認め難い。)、少年を在宅保護とすることは適当でなく、この際少年を施設に収容、保護し、社会生活に適応する性格矯正教育を施し、基本的な躾けを身につけさせることが相当であると思料される。さすれば少年を中等少年院に送致した原決定の処分は相当であつて、これを非難することはできない。論旨は理由がない。

以上、本件抗告は理由がないので、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 松本勝夫 判事 海部安昌 判事 石渡吉夫)

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